君の街から
はじめ

 時計の針は静かにキャベツを刻んでいる
 僕は暗闇の玉を抱えて外の世界と限りなく近く相対的な関係を保っている
 深夜の間は僕は自由に動けるのだ ドラキュラのように昼間は思うように動けないのだ 僕はガラスの向こうの世界へと行こうと思う
 その先には何も無いけれど 僕はCDを借りようと思う
 するとCD屋の姿が現れる
 僕は昔のスター達のCDを借りる
 僕と外の世界を繋いでいるのはCD屋だけだ
 僕が望めば望んだ店屋が出てきて次第に僕だけの街ができる
 それが過去に君と創った?君の街? だ
 そこへは極寒の外で気が遠くなる程の時間を待って 光のバスに乗って様々な場所を巡ってから終点で君の街へと辿り着く
 君の街は今は凍り付いていて 人々は誰も住んでいない しかし総合商業施設には電車が通るようになり駅ができた だがずっと冬なのでいつも無人だ
 僕はノスタルジアのせいか 死んだ君の街に戻って新札幌駅で一人駅長として働くことにした 少し若過ぎるかもしれないけど
 毎日朝早く午前5時に起きて雪掻きが欠かせない 電車は何処から来て何処へ向かうのかさっぱり分からない 死者しか乗れない電車なのだ 外から見ても様々な生き物達が乗っていて 様々な想いを抱きながら新札幌駅で降りたり通り過ぎたりするのだ
 新札幌駅で降りた者達は僕に切符を切ってもらい(ほとんどの者達は?君の街?に未練があるのだ ?君の街?に亡くなった方達の思い出が集積するという不思議な現象が?君の街?にはある) 「村上春樹」の『世界の終わり』の僕から採取された時間が経った?世界の終わり? が僕の影響で進化し流れ着いた壁が?君の街?で囲っていて 死者達は思い出で心を暖める為に思い出を探しに彷徨い続ける 誰一人としていなかった?君の街?が僕の勧めによって少しずつ住民が増えてきている
 僕はいつも猛吹雪のこの街より向こうの世界やあちらの世界を見てみたいと思う しかし電車は死者の為にあって 生きている僕は乗ることができない 吹雪の景色からぼんやりと向こうの世界やあちらの世界を見ることができる そこには?生きている?者達が住んでいると思うけれど(生きたまま電車に乗ると?この街?でどんな方法にせよ 死なないといけない) 死者達が?この街?に毎日のように来るのは大切な方を亡くした悲しみや苦しみを取り除く為だと思う
 僕は隔絶された街で今日も駅長をしている 街にはわずかながらにも活気が溢れてきた 皆失った方達と暮らしているのだ 酒屋もできた 街は再興されてきた しかし生き物達は決して?この街? から出ようとはしない ここはそういう者達にとっての天国なのだ 僕も失った君をこの街で再び手に入れて君と幸せに暮らしている それでいいのだろうか


自由詩 君の街から Copyright はじめ 2007-05-08 05:31:22
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