日常の革命
服部 剛

 今僕は、ロッテリア上大岡店の地下1階にいる。まだ開店して間
もない朝のせいか、店内には地味な女性と、テーブルに立てかけた
桃色の傘が1本。椅子に座るやいなや、早速手にした携帯電話を開
いて小さい画面をみつめるその女性は服の色も桃色で、くつろぎな
がら紙コップに入ったコーヒーを啜っている。店内には気の効いた
ジャズが流れ、僕の気持もほぐしてくれる。 
 何故ここにいるかといえば、今日は「新任研修」に行く為、いつ
もとは違う場所で朝のひと時を過ごしている。いつもはバスで職場
に向かうが、時々なら電車通勤も悪くはない。朝のJR戸塚駅のホ
ームは溢れんばかりの人であった。「東海道線は車両のトラブルに
が発生した為、現在15分の遅れが出ております」と、駅員のアナ
ウンスは蠢く人々の頭上から知らせる。エレベーターで地下へ下り
た僕は、しばしば通る戸塚駅でありながら、ほとんど乗ったことの
ない地下鉄の駅へと続く古びた通路に足音を響かせると、まるで見
知らぬ旅先の時間に身を置いているような錯覚を覚える。 
 上大岡駅で地下鉄を降りた僕は、改札を出てから緑の公衆電話を
みつけ、小銭を入れて、いつもならすでに出勤している職場の電話
番号を押すと、受話器越しで電話を取ったU先輩に、今夜職場に戻
ってから行われる会議についての連絡を同僚に伝えてもらうように
頼み、受話器を置いた。思えば今迄の僕は、職場の仲間とのそんな
一つ一つの連携を怠ってきた。ほんの些細な心遣いで周囲の人に微
笑みが生まれることを、僕は忘れずにいたい。 
 店内に客が一人増えた。階段を下りてきた赤い帽子の店員は忙し
げに音を立て、ゴミ箱から取り出した大きいビニール袋を手に再び
階段を上がり、杖をついてゆっくりと下りてくる初老の男性に満面
の笑顔で「おはようございます!」と言う。 
 今日は「新任研修」に行くが、僕は今の職場で8年働いているの
で「新任」ではないのだが、今ここにいるのも(時)が命じたこと
である故に、今日の研修でいつの間にか忘れていた「初心」を心に
納めるならば、参加することに意味もあろう。
 日々共に働く仲間とどうすれば幸せな時間を過ごせるだろうか。
繰り返される名前の無いの日常に、拳を振り上げて突入し「個人的
な革命」を起こしたい。周囲のうつむく人々に笑顔を生み出してゆく、
そんな日常の革命を・・・地下1階の店内で頬杖をつく僕は、そん
なことを考えている・・・時にはいつもと違う時間に身を置いた、
こんな朝も悪くない。 
 昨夜僕は寝る前に、ある本を読み始めた。「日常を天に」という
その本の表紙を見ると、後ろ姿の旅人が立ち止まり、目の前から遥
かな明日へと続く一本の道をじっとみつめていた。 





散文(批評随筆小説等) 日常の革命 Copyright 服部 剛 2007-05-08 00:55:34
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