旅人の死体
なかがわひろか

夕暮れ時に
死体が上がったと
町の漁師たちが言っていた

私はきっと
昼間のあの旅人が
死んだのだろうと
思った

きっと彼は海を見つめて
スケッチブックを開いて描いているうちに
海の色が羨ましくなって
その中に飛び込んだのだろう
それともいつまでも
海の色を出せない絵の具に
愛想が尽きたのかもしれない

海から上がった死体は
冷たくなったその手に
一枚のびしょびしょに濡れた
絵を握り締めていたそうだ

その絵に描かれた女は
どこか遠くの海を
見ているようだったと
町の漁師が言っていた

(「旅人の死体」)


自由詩 旅人の死体 Copyright なかがわひろか 2007-05-08 00:33:56
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