優しい魔女狩り
朝原 凪人
魔法使いという名のおばあさん
今日もゆぅらり揺り椅子で
黒猫撫でてお茶飲んで
お日様相手にうたた寝してる
空飛ぶ箒に引っ掛けた
雨呼ぶ帽子もゆらゆらと
風に戯んで戯ばれて
そこへ男がやってきた
鍬を担いだ大男
旱で畑が枯れちまう
雨呼ぶ帽子を貸してくれ
用が済んだら返すから
笑顔で手渡すおばあさん
あたしは雨を待ちましょう
魔法使いという名のおばあさん
今日もゆぅらり揺り椅子で
黒猫撫でてお茶飲んで
お日様相手にうたた寝してる
小屋の壁に立てかけた
空飛ぶ箒はかさかさと
風の相手に疲れたみたい
そこへ男がやってきた
老婆を担いだ小柄な男
病気でおっかぁ死んじまう
空飛ぶ箒を貸してくれ
向こう町の病院へ
用が済んだら返すから
笑顔で手渡すおばあさん
あたしは空を飛び飽きた
魔法使いという名のおばあさん
今日もゆぅらり揺り椅子で
黒猫撫でてお茶飲んで
お日様相手にうたた寝してる
風がつむじに踊ってる
そこへ女がやってきた
汚れた服の初老の女
鼠が蔵を荒らしてる
ちょっと黒猫貸しとくれ
用が済んだら返すから
猫を手渡すおばあさん
ほんのちょっぴりさびしそう
あたしの大事な友達なのさ
魔法使いという名のおばあさん
今日もゆぅらり揺り椅子で
ぽつんとひとり座ってる
お日様隠れ風止んだ
そこへ民衆やってきた
肩を落として俯いて
あんたを狩りにやってきた
領主様の命令だ
用が済んだら帰すから
優しく笑ったおばあさん
あたしもちょうど生き飽きた
魔法使いという名のおばあさん
いなくなった小屋の前
今日もゆぅらり揺り椅子が
風もないのに揺れている
そこへ黒猫やってきた
椅子に向かってニャーと啼く
呼ばれるように風吹いて
つむじに抱かれて猫消えた
おばあさんの最後の魔法