「焼き鳥しげ」-酔っ払いバージョン-
ゆいしずと
お客さんはこの近所かい
俺は二・三年前は
西新宿あたりでよく飲んでいたものさ
都市再開発とかいうやつで
空き地と金網ばかりが増えていって
小さなスナックやら寿司屋やらが並んでいたのが
一軒、また一軒と店を閉じて
戸口に木の板を打ち付けられて
そんな中で最後まで開いていたのが
「焼き鳥しげ」って店だった
この店が臭いんだ
店に入ると猫のにおいがする
奥の座敷でいつもでかい態度で寝ているのが
ボスのタマだ
その奥さんが小柄な三毛猫のハナ
二匹には子供が居て
シロとミー
まだ子猫だった
おっと、忘れちゃいけない
グラスの棚に一段だけ空きがあって
そこにはタオルが敷いてあるんだ
そこではいつもばっちい茶色い婆さん猫が寝てた
よだれをたらしながらね
焼き鳥を頼むと
マスターはいつも一本多く焼くんだ
猫たちへのおすそ分けのぶんさ
でも本当はタマは
焼き鳥より刺身の方が好きだったんだけどな
とくにカツオが
そうこうしてるとシロとミーがじゃれあって
店中を駆け回るんだ
だれひとり嫌な顔をする客なんて居なかったけど
そんな店だったんだ
そんな「しげ」も
ある日行ったらついに暖簾が外れていた
それから何日かたつと
店のあった場所には変わりに
大きな黄色いパワーシャベルが止まっていた
横の金網には
白い看板がかかっていて
そこにはきれいなビルの絵が描いてあった
完成予想図っていうのかい
まあ小洒落たビルだったが
猫が喜びそうには見えなかったな
そのあたりをうろつきながら
タマー、ハナー、シロー、ミー
呼んで歩いたけれど
誰も居なかった
きっとマスターが連れて行ったんだよな
そうだよね
絶対
あの婆さん猫も一緒に
そうだよな
おっと、時間だ
そろそろ帰らないとカアちゃんに怒られる
じゃ。