にじのみさきにて
さち



ここはどこかとおもう
そしてすぐに
ここは大地だとおもった
風がふいて
雨がふって
鳥がないて
いきて
いる



奏でる というようなものではない
どこからともなく湧き上がる
誰かが呟きだす
それは
真っ直ぐな点線のように
そして
螺旋のように
呼応する響きが徐々に絡まりだす
まったく自由に
好きなように

呟きは笑みを浮かべる
いつしか溶け合って
一度限りの歌になる
響きあう喜びが高まる
酔ってゆく
音にまみれてゆく
空へ昇ってゆく
地を這ってゆく
森に吸い込まれてゆく
どこからどこまでが歌なのかわからない
ずっとずっと広がってゆく



踊る というだけでは言い切れない
そんな踊りがあるわけではない
いつの間にか揺れだす
形に収まっていたものを
揺すり ほどきだす
音と音の間を体が埋める
大地を叩く 
踏みしめる
地球から返ってくる力が
生き物であった体を思い出させる

自分の命のために踊る
全ての命のために踊る
想いをこめて踊る
まるでからっぽで踊る
もうどっちが先かわからなくてもいい
踊るための命かもしれず
踊るための想いかもしれず
生きている熱に酔う




そろそろ一日がおわる
たいようは真っ赤で金色
かげえになった山のむこうに
ゆっくりと ゆっくりと
はんたいがわの空には
銀色のまんげつがのぼりだす
すこしずつ
熱をさますように



たくさんの使えるものがあり
使いたいものがあり
欲しいものがありすぎて
見えなくなっていた
夜は暗いということ
炎は明るくあたたかいということ
人は優しいということ
分けあえることは幸せなんだということ
闇に包まれた山あいの草地には
まだ今日を惜しむ人たちが
焚き火をかこんでいる
それは優しい光景で
ありがとうと言いたくなる
火がこんなにうれしいものとは知らず
闇がこんなに不安なものとも知らず
一人はどれほど頼りないことか
気付かずにいたから
ありがとうと言いたくなる



知らなかった人に 出会う
知らなかった 音に 色に 匂いに 出会う
気付かないうちに
知らなかった自分に 出会う
簡単に冷蔵庫から出して飲んでいたジュース
簡単なんかじゃなかった
当たり前に使っていたトイレ
当たり前なんかじゃなかった
風を遮る壁のある部屋で眠ること
電気があること
ガスがあること
水道があること
全部 全部
とても便利で助かるけれど
全部揃っていなくても
人は生きられるということ
全部揃ってなくても
人は生きられるけれど
誰かとともに でなかったら
生きていると感じきれないこと





2007/5/1〜3  阿蘇/虹の岬祭り


自由詩 にじのみさきにて Copyright さち 2007-05-07 10:18:02
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