砂漠にて
はじめ

 大きな染みが砂丘に沢山できている これは女王を襲うものである 色々な生き物の形をした染みである
 ここは夢の世界である 夜になって気温が下がり 寒い灰色の砂漠が広がっている アラビアの月の光を受けて 生き物をした染みが命を受けて起き上がり 僕らの女王の宮殿を毎夜取り囲んで女王の命を狙う
 何故女王の命を狙うのかと言えば──人間達が自分の欲望や快楽の為に無駄に生き物達の殺生を行っているからである──その為死者達が怒り始め 死者の影が死んだ場所に染み付いて夜な夜な復活して旅人など人々を襲って魂を食らう
 神様はそのことについて深く悩んでいる しかし殺されたもの達の意思は自由なので 何も言えないのである
 人々をこの地域で統括しているのは紛れもない 女王である その女王が殺生を許可し殺せば無駄な殺生が行われなくなると死者達は思っているのである 死者達は皆松明を持って 宇宙に蒼く染まった灰色の砂漠を照らしていた
 僕達下級兵士は城壁から身を乗り出して死者達の影が武器を持ってぞくぞくと集まっているのを見た 同僚達は毎晩毎晩恐れ戦き 戦闘心を奪われてしまう 僕は寒いのに汗を掻き 心臓の音で震えるのを感じながら弓矢を持って何時でも戦闘が行えるように準備している
 松明が投げられた瞬間に戦闘が始まった 影達は城壁の巨大な扉を打ち破ろうと大木をみんなで担いで体当たりしてきた 巨大な音と振動で城壁は揺れに揺れた 僕達は城壁の扉を守るため 裏側で押さえていた 物凄い音と振動と力で吹き飛ばされそうになった そして最後にはついに扉が破られた 僕達は本殿の入口まで下がって周りを固め 影達が襲ってくるのを待った
 大木が扉から抜き取られ その中から影達が入って乗り込んできた 恐ろしく低い煩悩を誘う声と熱波が僕達に発せられて影達が襲ってきた 僕達下級兵士は本殿内で警備している上級兵士に女王を任せて「おーっ!!」と気合いを入れて声を張り上げ 影達に向かっていった
 武器が交じり合う音と全員の両足で地面を激しく叩きつける音と彼方此方に飛び交う大量の大声で宮殿の庭は大混乱になっていた 断然影達の力の方が圧倒的に強く 後退させられていって 本殿内に侵入されそうになった時 テラスから上級兵士に護られて女王様が「肉体を失いし魂達よ!! 影を肉体にした者達よ!! 静まり給え!!」と発しなされた
 何故か影達は争いを止め 僕達も動きを止めて女王様の方へ振り向いた 女王様は遠く地平線の彼方を一度見つめてから息を吸って語り始めた
「あなたたちが心無い人間達によって殺された悲しみは十分分かっています。あなた達が望むのなら私を殺しなさい。しかし、これからは無駄な殺生は禁止することを約束します。だから、これ以上魂を食らうのはよしなさい。どうか、お願いします…」
 すると影達は突然争っていた手を止め 武器を落とし「分かった…」とでも頷くようにしてうっすらと綺麗に消えていった 僕達は歓喜に沸き女王様を見て万歳をし その日は楽しい宴になった 宴は壮美な太陽が昇るまで続いた その光によって砂丘の染みの群れは浄化していき消えていった それからというもの 無駄な殺生は禁止され 二度と肉体を持たない魂達がアラビアの砂漠に現れることは無くなった


自由詩 砂漠にて Copyright はじめ 2007-05-07 03:02:25
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