太陽と沈黙
村木正成

研ぎ澄まされたナイフで空を
切り裂いた太陽は
六十億もの穴の空いた
大地にやがて沈んでゆく
プラタナスの葉に覆い被さるように
牧羊神の与えた息吹が
薄いガーゼとなって絡まる
初夏の森を中心に
黄に青を混ぜた光が
波紋状に拡がってゆく

 空色のクッションは隅々をつつき
 やがて膨らんでゆく
 ―放浪の外套の裾は煙であった
 虹色のトカゲは心の中に潜み
 深く潜ってゆく
 ―胎芽は夜のものではなかった

空からしたたる葡萄酒に
傾いた太陽は
午後の沈黙の空に
染まらずに漂うばかり
白銀のみずうみに降り注ぐように
女神シベールの微笑みは
深い混沌として満たされる
夏蝶の紫の鱗粉で
沈黙の大地の震動は
空に大いなる一撃を与える


自由詩 太陽と沈黙 Copyright 村木正成 2007-05-05 09:16:13
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