夢釣り
銀猫

車窓の視界が
きらめく波でいっぱいになり
埠頭を渡る風の翼が
一瞬、かたちとなって見えた午後

岸壁の釣り人は
ただ垂れた糸の先と
深さの知れぬ水底近くを
くろい海水に遮られながら見つめている

風景の端から
海水の温度や色合いを
推し量るわたしのこころと
釣り人は静かに重なり

微かな希望を
深い水のなかで
やみくもに探っている


岸壁に波が際立ち
海風が冷え始めた
けれどまだ立ち去れない

(針の先にこころの欠片を付けてある)
(これを置いてゆく訳にはいかないのだ)

ゆっくり、ゆっくりと
引き上げなくては帰れない
獲物の夢が糸を引かなくても

風がなくから
海がなくから




自由詩 夢釣り Copyright 銀猫 2007-05-05 00:13:11
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