素数
umineko

帰ろうとしたら壊れていた
自転車
サドルが遠く 曲がって

きっと人ごみに
押されたのだろう
かたちあるものは壊れていく
いつから
怖くなくなったんだろう

父の記憶も
それに似ていた

灰になる前の
彼のことばは
こなごなに壊れていて
断片として地名が出る

それは彼の遠い歴史
戦争の前に
過ごした場所

かたちあるものは壊れていく
かたちのないものも

私はもう認めている
敗北だ
だから私は 
笑っていられる

たくさん仕事 しよう
笑って生きよう
逢いたい人と逢うんだ
逢いたい場所で

ごめんね

ほんとうに逢いたい人にだけ
そのことばが
言えない

詩を書いて
ネットに投げて
どんな記憶も薄れていく
私は大丈夫

素数

帰る場所は
もうないよね


永遠に浮遊する







自由詩 素数 Copyright umineko 2007-05-04 23:19:39
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