素数
umineko
帰ろうとしたら壊れていた
自転車
サドルが遠く 曲がって
きっと人ごみに
押されたのだろう
かたちあるものは壊れていく
いつから
怖くなくなったんだろう
父の記憶も
それに似ていた
灰になる前の
彼のことばは
こなごなに壊れていて
断片として地名が出る
それは彼の遠い歴史
戦争の前に
過ごした場所
かたちあるものは壊れていく
かたちのないものも
私はもう認めている
敗北だ
だから私は
笑っていられる
たくさん仕事 しよう
笑って生きよう
逢いたい人と逢うんだ
逢いたい場所で
ごめんね
ほんとうに逢いたい人にだけ
そのことばが
言えない
詩を書いて
ネットに投げて
どんな記憶も薄れていく
私は大丈夫
素数
帰る場所は
もうないよね
永遠に浮遊する