渚のヴィオロン
Rin K

記憶のかたわらで
あの人の奏でる、ヴィオロン

夜想曲は、もう
恋のできない私に似合いね
と わずかに唇をゆるめてから
伏目で弾いた鳴きやまぬ、旋律
それはどうしても、波としか呼べなくて
月が、潤む―――

     *

まぼろしさえ返せない渚で
目覚める夢をみた

すれ違った風に
ぬくもりを感じながら
またひとつ、ふたつきりの足跡でしか
越えられない季節を
またいでゆく

     *

静けさは蒼
月のなみだには今宵も変わらず色がなく
濡れた一凛の花に
言いかけて、やめた
言葉のような
露を置く

     *

いくら恨みを綴れても
憎むことのできない花の白
静寂にあまりにも映えて
欠片のようなネイロがこぼれる

ほら、 ごらん、星砂
まぎれもない生きたものの、欠片

     *

誰かの代わりに連れる影
切り出せなかったこころの代わりに、細波が
寄せる 絶え間なく
やわらかく

遅れた時計に代って
遠ざかる隙間を刻むヴィオロン

失くしたものはかけがえ
どれだけ似たものも代われはしないから
波、かぎりに響け

        渚が、かすれゆく





自由詩 渚のヴィオロン Copyright Rin K 2007-05-04 20:02:26
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