おかあさんはいった
桜 葉一

『のびたままのかっぷらーめん』

おかあさんは言った

いい?
3分よ、3分たったら目を開けるの
砂時計の上の砂が下に落ちきったら3分だからね
それまでは目を開けちゃだめよ?
分かった?
絶対よ
それじゃあ目を瞑って
いい?
砂時計
ひっくりかえしたわ
3分間
砂時計が全部落ちるまで目を開けちゃいけないのよ
絶対目を開けちゃだめだからね

それ以来
おかあさんは僕の前からいなくなった
3分間と言う長さを知らない僕は
砂時計が落ちきるのをいつまでも知れない




『あなのあいたばけつ』

おかあさんは電話口で言った

公園の砂場に青いバケツを置いておくわ
それに毎日シャベル一杯分だけ
砂をすくって入れなさい
いい?
一杯だけよ
バケツに砂が満杯までたまったとき
おかあさん
あなたに会いに行くから
それまで楽しみに待っててね
でも一日一杯
これだけは約束
絶対に破らないでね

それ以来
僕は毎日公園の青いバケツに砂を注ぐ
半年たっても一年たってもそのバケツの砂はいっぱいならない

おかあさんがこっそり
シャベル一杯の砂を
バケツから砂場に返していることを
僕はまだ知らない



『げたばこにいれるおもい』

おかあさんから手紙が届いた

ごめんね
おかあさん
今はまだあなたに会うことができないの
でも大丈夫
心配しないで
必ず迎えに行くからね
それまで待っているんだよ
あなたが寂しく感じないように
おかあさん
これからは毎日手紙を書くようにします
忙しくって書けない日があったらごめんね
あなたが
たくましく成長した姿を早く見れることを祈ってる
じゃあ元気でね

それ以来
おかあさんからの手紙は一度も届かない
きっと毎日が忙しいんだろうと思う
だけど
おかあさんは手紙を書いているだけで
送ろうとしていないだけだと言うことを
僕は全然知らない


『かたおもいのこいのけつまつ』

おかあさんが両腕を広げ呼びかける

久しぶり
大きくなっちゃって
恥ずかしがらないでこの胸に飛び込んできなさい
ほら
はやく
なにやってるのよ
照れてるの?
あぁそうよね
あなたもう小学6年生になるんだものね
さすがに抱きつくのは恥ずかしいよね
ごめんごめん
じゃあ
なでてあげるから
こっちにきなさい
どうしたの?
それも恥ずかしいの?
もう
ほんとにあなたは恥ずかしがりやなんだから
ねぇどうしたの
もっと近くに来なさいよ
おかあさん
あなたの顔をもっと近くで見たいの
あぁ本当に久しぶり
こんなに大きくなっちゃって

そう言えば僕は
おかあさんを知らない


自由詩 おかあさんはいった Copyright 桜 葉一 2004-05-04 03:13:49
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