二つのカップ
今田コボ


逆光でよく見えなかった顔は
少し寂しそうだった
あの人、もうすぐ死ぬの
朝靄に紛れて
毎日出かけていく
今、生きている
その事を
実感したいのかもしれない

かわいそうな人


あの人は光に当たりたがる
ねえ、眩しくて見えないよ
わたし
あなたがいなくなったら
一人で生きていかないと
いけないの
だから
いなくならないで


光に当たる彼は
少しずつ
本当に少しずつだけれど
透明に近づいている

消えてしまわないで

夕焼けの
紫がわたしたちに
近づいてくる

あの人、どうなるの
ねえ、あのひと

(・・・・・)




次の日の朝
いつものまばゆい光の中に
彼の姿はなかった
ああ
あの人、死んでしまったのね
二つ並べたコーヒーカップが
いつまでも太陽の光で
輝いていた




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自由詩 二つのカップ Copyright 今田コボ 2007-05-03 08:27:46
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