駐車場猿
なかがわひろか
駐車場の猿と一週間ぶりに出会った
整列、点呼
前と変わらず厳密な声が響く
相変わらずやってるね
僕は猿に尋ねる
もう毎日のことだからね
その辺の軍隊よりも
よっぽどいいんじゃないかな
猿たちは区分けされた場所で
隊列を確認し合う
そろそろ新しいリーダーも必要なんだ
僕は驚いた
君は辞めちゃうのかい?
実は都会の方から引き抜きにあってるんだ
女房や子どもたちにも
もっといい暮らしをさせてやりたいからさ
行こうと思ってる
猿が言うその場所は
僕の住む街から随分離れたところだった
なんだか寂しくなるね
僕はそう言った
猿は何も言わない
新しいリーダーが決まったら教えてくれよ
一応挨拶しておきたいからさ
猿は分かったよと言って
訓練に戻る
夜の駐車場には
また猿の声が響く
寂しくなるな
僕は小さくそうつぶやいて
駐車場を後にした
(「駐車場猿」)