いのち
weed & sky
この間実家から電話があって、
ハイキングがあるから帰って来いという。
町内といっても田舎の町内は範囲が広いのだが、
その町内でマイクロバスに分乗し、
牧場公園に行くのだという。
なんやその牧場公園て。
それにハイキングなんてしんどそうやなというと、
年寄りばかりだから大丈夫だという。
牧場にはステーキハウスがあって、
ステーキも食べられるし、という。
牛を見ながらステーキというのは、
水槽のアジを見ながら活け作りみたいで、
とても食べられないなと思いつつ、
でもハイキングのためだけに、
新幹線とJRとタクシーを乗り継ぎ片道17000円。
翌日は朝から黒く見えるくらいの青い空。
日頃の行いが幸いしもう絶好のハイキング日和。
マイクロバス3台に分乗し、
確かに年寄りは多いが若者もいなくはない。
半分くらいは居眠りしながら目的地の牧場に到着。
子どもらは丘の上までソリを引きずり上げ、
滑り降りるというのを飽きることなく繰り返しているが、
私にも両親にもそんな体力はまったくないので、
往復650円払い長いリフトで展望台まで上がる。
前のリフトには父と母が仲良く乗って、
私は1人でリフトに乗る。
大きな父の背中のとなりに小さな母の背中があって、
後から写真を撮ろうと携帯を向けるが、
何だか泣きそうになってしまう。
私はとても過保護に育てられ未だに過保護なままなので、
こんな大人になったわけだが父も母も大好きなのだ。
実家に帰ってくるたびに小さくなっていく両親を見ると、
もうあと何回この優しい人たちに会えるのだろうかと、
そんなことばかり考えてしまう。
それでも何枚か写真を撮って、
携帯をポケットにしまい足もとを眺める。
リフトはかなりの速度で急な坂を登っていき、
私の足の下には雑草の花がたくさん咲いている。
うす紫色の花、黄色い花、とてもちいさな白い花。
草が風になびいていてアブが飛んで、
当たり前のことなのだが、
みんないのちがあるのだなあと思う。
そしてやがて死んでいくのだなあと思う。
でもみんな今を精いっぱい生きているのだなあと思う。
どんどん過ぎ去っていく私の足の下にいのちがあふれている。
リフトが頂上についてやっぱり母が降りるのにちょっと失敗して、
私はどうにかうまく降りて父と母のむこうにお花畑が見えて、
みかん食べるか?
母が笑ってそう言った。