年老いた青い鳥
リヅ

朝食は今週三度目のハニートーストだった
君は窓を開け放し 街の喧騒を招待する
車のクラクションと通行人のおしゃべりが優しく体を満たすから
満足気にテレビの電源をつけてみたりもする
カーテンがわりの煤けた赤いロングスカートがはためく
僕は部屋の隅でこっそりと
誰かの生活の音に殴られつづけている

サイドテーブルの上 チュニジア製の鳥かごの中で
青い鳥はいつも眠っている
痩せこけた体と曲がった背骨とを
君の愛するやけに艶やかな羽で隠して
隣の花瓶には枯れてしまった白い花
乾いた花びらが壊れかけのリモコンに舞い落ちる
そのリモコンで
君は鳥に歌の一つでも覚えさせようと
毎晩テレビの歌番組にチャンネルを合わせるんだけれど
上手くいったためしがないから
眠りに落ちる時 少し悲しそうな顔をするのが癖になった
鳥はきっと眠ったふりをしいてるだけなんだよ
気のきいた言葉も
枯れたままの白い花も
夜に飲まれて消えてしまう

昨日の歌を忘れた午後に
道化師の男が表の通りで半透明のビニル風船を配っていた
何人かの子供が空の下でうっかり手を離し 多くの子供は大事に家へ持ち帰るだろう
君は窓辺で子供たちの風船を羨ましげに眺めている
大人になりきれないその瞳が好きだった
笑い声が聞こえる
僕らは外へ駆けて行ったりなんかしない

君と初めてキスした場所
時刻
天気
全部覚えてる
問題は
その時の鳥の顔をぼんやりとしか思い出せないこと
その時の瞼を閉じた僕らの顔を鳥が教えてくれないこと
眠ってばかりで


おはよう
また朝がきたよ
いい天気だよ
明日もくるよ
明後日もくるよ
ねぇ、もう君に言わなきゃならない



青い鳥は年老いてしまったんだよ




家へ持ち帰った風船がしぼんで
子供たちはきっとゴミ箱に捨てる
年老いた青い鳥を空に放ったら
僕ら部屋を出よう
おいしい朝食を食べに
新しいスカートを買いに
風船をもらいに
花屋にも寄って

からの鳥かごを持って
中に白い花を飾って


自由詩 年老いた青い鳥 Copyright リヅ 2007-05-01 21:15:31
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