バケツ
たもつ

テレビが湿っている
ただで人からもらった
のだから仕方がないけれど
水分をたっぷりと含み
少し軟らかい感じがする
付属のリモコンも
ただで人からもらったから
同じように湿って
チャンネルを押すと
水槽に手を入れたときと
同じ音がして
同じように指先は濡れる
本当は水槽なんていらなかった
金魚も臭いからいらなかった
でも縁日でもらった
とお姉ちゃんが朱色のを二匹
袋に入れてきて
このままじゃ死んじゃうからって
水槽に入れて
そして二日後に赤飯は
お姉ちゃんのために炊かれた
それから二匹の金魚を
生きたまま埋めて
終わりにした
ただだったから誰も
そのことに気づかなかったし
赤飯も美味しくないから
食べたくなかった
湿ったテレビの中で
司会者や出演者の髪や服は
何かをしてきたみたいに
やはり湿っている
ただでテレビをくれた人が来て
テレビはどうでしたかと聞くので
湿ってますと言うと
庭先にあったバケツを
持って帰ってしまった
結局ただのものなんてありはしない
けれどバケツは滅多に使わないし
縁側にもうひとつ別のがあるから
それでもよかった
こうして眺めると
あの日、金魚の近くに
自分を埋めたことがわかる



自由詩 バケツ Copyright たもつ 2007-05-01 21:07:37
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