いつかのヒーロー 
服部 剛

野球帽をかぶった少年の頃 
いつもベンチから 
マウンドに立ち、グローブを頭上に振りかぶり
構えるキャッチャーに
びしっ 直球を投げ込む
エースのあきちゃんをみていた。 

チャンスでバッターボックスに立つ 
4番打者のあきちゃんが、バットを振り抜いた
白球は放物線を描いて、外野手の背後
3階校舎のベランダへ吸い込まれると 
ベンチにいる僕等は
いっせいに拳を突き上げ立ち上がった。 

ダイヤモンドをゆっくり1周して 
ホームインしたあきちゃんは 
父親の監督とハイタッチして 
ベンチで出迎える僕等と 
両手を重ねてゆく 


  * 


20年後 
近所の寿司屋の暖簾のれんをくぐると 
演歌の流れる店内で 
久しぶりに鉢合はちあわせたあきちゃんは 
妻と子と、あるじになった男の背中を 
カウンターに並べていた  

少し緊張して声をかけ 
こちらに振り向いて 
「おぉ・・・!」 
と叫んだあきちゃんの 

頭はすでに、禿げていた。 





自由詩 いつかのヒーロー  Copyright 服部 剛 2007-05-01 20:15:21
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