棺流し
なかがわひろか
今年も川上から
棺が流れてくる
棺流しのおじさんが
一つ一つ流していく
棺流しのおじさんは
いつも無言で棺を流す
時々話しかけてみるけれど
にこりと笑みをこぼすだけ
棺はぷかぷかと流れていく
小さな棺も
大きな棺も
川下へと流れていく
自殺した人もいたろう
生まれることもできなかった人もいたろう
殺された人もいたろう
生きているか死んでいるか分からない人もいたろう
棺流しのおじさんは
一つ一つ大切に
棺を流していく
棺流しのおじさんが死んだとき
私は上等の木を切り倒し
おじさんにぴったりの棺を作った
私はおじさんをその中にいれて
川に流した
棺流しのおじさんは
とても穏やかに流れていった
毎年たくさんの棺を流していた
棺流しのおじさんは
ゆっくりと川を流れて行った
(「棺流し」)