セイコさん
ふるる

小さい頃からお世話になっていた診療所には
セイコさんがいた

しなびた手のお年寄りで
診療所の奥で薬の調合をしたり
患者がいなくて暇な時は掃除をしたりしていた

小さい頃はよく風邪をひいたけれどそれも減り
中学生になり
社会人になって
ごくたまに風邪をひいて診療所に行くと
まだセイコさんはいた

相変わらずしなびた震える手で薬を調合していた
雪のような白髪で
喋ることはなく
(多分、耳が聴こえないんだろうと母が言っていた)

それから年月がたって

昨日は子連れで帰省して
子供が熱を出したので診療所に連れて行ったら
先生は若先生になっていたのに
まだセイコさんはいた

お久しぶりで、と言おうとしたけれど
セイコさんには聴こえないのだと思いやめた

作り終えた薬をよたよたと運ぶセイコさん

子供用なのか
飴が一粒、薬の袋に入れられていた

帰り道で
「セイコさんて男なの、女なの?」と子供が聞いた


自由詩 セイコさん Copyright ふるる 2007-04-29 22:05:52
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
?不思議シリーズ?