空中浮遊少年
青色銀河団

あれはインドを旅していたときのことだった。
ある村でマーケットに並んでいる親子3人が目に入った。
お父さんとおそらくその小さな息子二人だ。
目立っていたのは5歳くらいだろう小さいほうの男の子だった。
その子はズボンの膝から下がどうも何もなさそうだった。
事故か何かで両足を失ってしまったのだろう。
ところが彼はちゃんと足があるのと同じくらいまで
背が伸びたり縮んだりしていた。
宙に浮いていたのだ。
どうやら足を失うのと引き換えに彼は空中浮遊の技術を
手にいれているようだった。

わたしが身振り手振りで「すごいねえ」と感心して見せると
その少年は得意げになってヒュンヒュンとても高いところまで
飛び上がってみせたりしてくれた。
無邪気に喜び飛び跳ねる少年の傍らで
お父さんはあまり嬉しそうではなかった。
いやむしろとても暗い顔なのが印象的だった。
あまりに際限なく飛び跳ねが続くので
ぼくはもう行かなければいけないと
これも身振り手振りで説明し無理やりその場を立ち去った。
あとから気づいたのだが私はお父さんに
「彼は本当に生きているのか」と
聞くべきだったのかも知れない。


散文(批評随筆小説等) 空中浮遊少年 Copyright 青色銀河団 2007-04-29 19:26:38
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