水のないバスタブにサンドイッチを手にした男が座り込む
プテラノドン

沈黙とは磁石のように引き寄せるもの―

 マグリットは間一髪のところでサンドイッチを掴み取った。
パンの耳がついていたことを記述しておく。それから電話の
ベルが止んだ。向こうから、ぼそぼそと声が聞こえる。
誰に向けて喋っているのかわからないが、彼は受話器から
耳を離そうとはしない。とてもじゃないが他人とは思えないのだ。
沈黙が。兄弟といってもいいかもしれないが、だからといって
全てをさらけ出す様な真似はおいそれしようとはしない。
突慳貪に風呂にでも入ればいいのか?日差しの入る浴室、
水の張られていない、受話器形のバスタブ―そこに、沈み込む男。
 ランチタイムの時分である。天気は快晴だった。にもかかわらず、
「飯が不味くなる」彼は言った。そう、そとの天気は快晴。
パンなんてすぐに乾いちゃう。店員の力を借りずとも、
じきに蟻たちがパンに群がり運び出してくれるだろう。


自由詩 水のないバスタブにサンドイッチを手にした男が座り込む Copyright プテラノドン 2007-04-29 13:33:18
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