弱い音
チグトセ

今日も君はハイヒールを履いて
チラシを踏んづけて転びそうになって
ガニ股で踏ん張って
舌打ちをしたらやけに悲しくなって
走る必要なんかなかったのに走って
街から外へ出てきた

外に出てもなんもなくて
傾いだ電柱と
無意味なマンホールがあるばかりで
そもそも外にはなんもなかったから君は中に入っていったわけで
もう一度舌打ちをしてみたのに世界は相変わらず君をシカトした

とにかく、今日も一日君はしゃべりまくった
毎日毎日君は君の世界を街に向けて発射し続け
日本人の平均的しゃべる量よりもずっと多くしゃべっていて
データにしてみたらそれこそ情報局のおっさんが腰を抜かすくらいしゃべっているのだけれど
そのほとんどはクソしゃべりたくもないことばばかりなのだと

笑顔、笑顔、毒、毒、涙
笑顔、涙、毒、笑顔、涙、毒

そんな君が吐き出せなかった言葉は
それらの真ん中ですっと不安げに悲しそうにしていたんだ

だからさ、いいじゃん、話せよ
聞くよ、そんなの
たとえばそんなもんまったく見当違いで解決策にはならないにしろ
ひたすら俺はオルゴールのようにただ聞いているから
君の強さへの意志と向上心について

好きなように生きたいと願うことと
心の中のまどろみについて
空回りがいつまでも怖いことについて
できればもう嘆きたくないと肩を震わせることについて
名を付けたカレンダーの海の名前について
実家のピエロ人形の十五歳の誕生日について
最近誰かを近くに感じたことがないと言ったことについて
私は誰かに好かれるに見合うだけのこと、何一つやってないと言ったことについて
君を素通りしていった、たくさんの優しさについて。


自由詩 弱い音 Copyright チグトセ 2007-04-29 09:58:05
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