「 隣人。 」
PULL.







かっ、
かたん。
がさごそ、
がさごそそぞ。
ご。
ご。
ごっ、

物音がする。
隣人は今夜もお出かけらしい。
今月はこれで二度目だ。
こんな真夜中から、
まあお盛んなことであるが、
いつも眠りを妨げられるので、
つくづく迷惑している。
近頃は、
ああいうものたちが増えて、
どこもその対応に腐心していると、
伝え聞く。
この様な夜の乱れは、
わたしが若い頃にはなかった。
何とも由々しき事態だと、
今夜も心を痛めている。

とはいうものの…。
正直なところ。
この若さで、
精も根も尽き果ててしまったわたしとしては、
隣人のあの元気が、
何とも羨ましい限りなのである。
月の暗い夜にでも一度。
満天の星を仰ぎつつ、
一献傾け、
その秘訣を伺いたいものだ。

わたしが二十歳でここに埋葬されてから、
もうかれこれ二百年になるが、
一度もこの棺の外に、
出たことも出されたこともない。
なのに、
新入りの隣人ばかりが、
満月の夜毎に棺を抜け出し、
街を出歩いている。

誠に昨今の夜の中は、
不公平である。












           了。



自由詩 「 隣人。 」 Copyright PULL. 2007-04-29 05:02:15
notebook Home 戻る