大人
なかがわひろか
ねえママ、あれが欲しいよ
いい子ね坊や、大人になったらなんだって手に入るわ
だから今は我慢しましょうね
僕はそんな風に
子ども時代をただ我慢することで
過ごしてきた
毎日毎日我慢した
欲しいものがあっても
好きな人ができても
僕はひたすら我慢した
大人になったら手に入るんだから
僕はそのうち大人になった
これで何でも手に入れることができる
僕は欲しかった拳銃を
お巡りさんにくれないかと尋ねた
お巡りさんは僕を笑い飛ばしたので
僕は仕方なくそばにあった大きめの石で
彼の頭をかち割って
拳銃を手に入れた
だって僕は大人になったんだから
僕は好きな子ができた
とてもきれいな目をした子だった
彼女はいつも彼女の恋人と一緒にいた
ある日僕は彼女の恋人に
彼女を僕にくれないかと言った
彼は僕を馬鹿にしたように
僕の顔に唾を吐いた
僕は仕方がなかったから
お巡りさんからもらった拳銃で
そいつの頭をぶち抜いた
彼女は僕の物になった
僕は大人になったんだ
僕と彼女は結婚して
二人の子どもを授かった
僕が子どもは男の子と女の子の二人が欲しいと
言ったからだ
子どもたちは僕にいろんなものをねだったけど
僕はママの教えの通り
大人になったらなんでも手に入ると教えた
パパを見てご覧
こんなに素敵なママと君たちを授かっているだろう
そう言うと子どもたちは
とても嬉しそうに笑った
いつしか子どもたちは二人とも大人になった
ねえパパ
上の男の子が言った
ママが欲しいんだけど
僕は少し困って
それは無理だよと言った
だってママはパパの物だから
息子はそう聞くと
悲しそうな顔をして
台所から包丁を持ってきて
僕の心臓に突き刺した
だって僕はもう大人だから
なんでも手に入るんだよ
息絶え絶えになった私に
娘が声をかけてきた
ねえパパ
パパの遺産は全部あたしのものにしてね
そう言って私の親指に私の血をつけて
契約書にペチャッと判を押した
あたしだってもう一人前の大人よ
二人の子どもたちが大きくなったことに
私は喜びながらも
どうやったらやつらの命を奪えるだろうかと
考えていた
(「大人」)