空の刺繍
はな
心配事の多い夜に
あなたがまつげを上に向けて
なにもない灰色を
そっとめくる
そらのうらがわには
てんごく なんてものはなかった
ただ
春めいたゆうやけがとろけていて
おもたい建物のすきまを満たしてゆく
切り絵のような
ぎこちなさで
会話がとまると
ひんやりと ながれゆく
都会のまんなかの
さざやかなほし
ベンチにすわるあなたが
まぬけなかおでうたたねを始めて
わたしは
針を運ぶ
ずいぶんまえに放ってしまった いくつか
わすれていく今日の
オリオン座のとなりの
あたりに
だれかが
みつけやすいように
朝が来ると
ちいさなささやきが近づく
おもたそうな街が また こきゅうする
水平のむこうに
始発電車
青みを帯びてひらきはじめる
針の跡が
おぼろに
おかしなもようを
描いて