髭剃り いろんな人間の平日
ねろ



水底にそっと触れると感情線が走っていて
僕の過去は沈むたびに息継ぎをしている
腫瘍のような実を実らせてる昼間の空気

(そうですか、から会話は始まって)

何も無いという事を研究している彼女は黙って
俯いたまま何も喋れなくなっている

(ふるうことばは境界線を抜けて僕の
掌の形をかたどっていく)

そうですかで終わりなんか来ないって事
まるで僕は昨日初めて聞いたように

(僕は実際そのひとことで終わりが来ると思っていた)

塗り替えられる世界の音も知らずに引きずられていく

音楽は血液の流れみたいに耳の奥から突き抜けてくる
息苦しくなると空を見る、触る、空気触媒の中で飛行機の
飛んでるあたりまで手が届きそうな気がする

太陽が怖く見える日があること 僕には死なんかよりも全然
足音鳴らす感覚で近づいて来て離れないものが昼間、だとしたら

どこまでもどこまでも逃げられる日があるよ例えば夜、が続く日のこと考えて見て

僕、の発音で雨に濡れた夜を思い出しながら心音を口ずさんでる駅のホームで
ここで飛び降りる人はきっと世界の果てまで逃げられる、と思って飛んだんだ
逃げられない想像を何度も繰り返して、何度も何度も繰り返して

(ねえ君、僕の知らない一言を言って見せてよ、一体何があるんだい?)

大体のことは想像してきたしちっとも驚けたりな
煙草の煙がやけにきれいに見えるから困っている
街はまるで箱庭のように僕らをいつも飼いならす
顔に手の甲あてて「まるで辟易している」のポーズ

(ちっとも終わりなんか来ないのを知ってたの?)

終わるように、浮遊するように、消えながら生きていく
それくらいしか僕に出来ることはなにも無い

たくさんのドアの向こう側にたくさんの人が居て
僕は僕を背負いながらそのドアのひとつひとつをノックする

(瞳孔が腫れあがってから僕はまるで何も見えなくなってしまったんだ)

誰の顔が誰であるのか僕は忘れてしまった
紅茶を飲み続けたけれど砂糖を忘れていた様なもので
お前って言う言い方をされるときに床に転げて笑い出したくなる時と似てるんだ

(僕はいつものびすぎた髭を剃る時にはキリンになる方法論を考えている)

いつでも靴を飛ばそうと思って足まで飛ばしてしまう僕を
彼女はきっと何も分からない人だと思っている

(飛んでいった僕の足は明け方の冷たいアスファルトの上を歩いて
昨日の夜を連れて家へと帰ってくる)


未詩・独白 髭剃り いろんな人間の平日 Copyright ねろ 2007-04-28 09:47:08
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