魚の目
なかがわひろか

生まれたとき僕らは一人残らず
目玉の手術を受ける

僕らは始め誰も目を持っていない
昔の人にはあったんだ
だけどそれは真実を見出すことさえできなかったから
そのうち退化しちまった

だから僕らは大人たちの目を
自分たちに植え込まれる

大人たちは
子どもの頃に植えられた目を抜き取って
代わりに死んだ魚の目をくり貫いて
そこに埋める

僕たちの目は
はるか昔からの使い回しさ
大人がみんな同じ目をしているのは
それは仕方のないことなんだ

僕らはその使い古された目をつかって
これからいろんなものを見るだろう
だけど
段々それも古くなっているから
本当のところ
よく見えないんだけど

それでも何かが見えることは
素敵なことさ
大人になったら死んだ魚の目になるんだ
それに比べちゃ
随分マシだと思わないかい

ごらん
生まれたての君のことを
魚の目をした両親や
おじいちゃんやおばあちゃんたちが
じっとじっと見つめているよ

彼らは何を見ているだろう
君を見ているのか
君の目を欲しがっているのか

(「魚の目」)


自由詩 魚の目 Copyright なかがわひろか 2007-04-28 03:59:38
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