貝の家族 
服部 剛

玄関のドアを開くと 
家族の靴にまぎれ
老人の下駄がふたつ 
並んでいた 

あたりを照らす
天上の 
ほのかな灯り

下駄箱の上に
立て掛けられた 
一枚の絵 

( 砂浜の上に並ぶ 
( いくつかの貝は 
( それぞれに 
( 口を結んで
( 耐えていた 

ふすまの開いた部屋から 
認知症の老人が
杖をついて出てくる 

老いた妻の肩を借り 

麻痺した片足を
引きずりながら

「 この絵、いいですねぇ・・・ 」 

「 夫が昔描いた絵なんです 」  

老いた妻の肩からは離れ 
よろめく老人に肩をかす
介護士の青年 

玄関のドアを閉める時 
背後の隙間から 
不思議な波音が 
聞こえた 





自由詩 貝の家族  Copyright 服部 剛 2007-04-28 02:28:53
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