みどりのスケッチ
銀猫

あんなに降っていた桜は
何処へ流れていったのだろう
夜の手がそっと集めて
すこし北の、
山並みを越えたところへ
風に溶かして運んだのだろうか


翠を湛えた葉桜は
それはもう、
ひとつの恋でも忘れて
背筋をわざと伸ばした少女のようだ

霧雨に潤うやわらかな体躯は
手足に細かな水晶を無数に飾り
これから美しくなるのだ、
そういう心根のように
いじらしく、乾いた爪先で
魔法の水を吸い上げている

僅かな日毎の繚乱を
惜しげもなく晒し
眼の奥底に
或いは誰かの思い出に色を施して
春、を永遠に重ねてゆく


桜の樹の下を
いま
白い蝶がひとひら
ぬるい風に流されていった










自由詩 みどりのスケッチ Copyright 銀猫 2007-04-27 20:10:25
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