夏葬/Allegro assai
紅魚
心なしか頼りない日差し
見上げる視界の右片隅、
夏に覚えた眩暈が
いつまでも居座る気配です。
鳩が不格好に歩く石畳、
高い高い螺旋の、
廻る、空
に、墜落する飛行機雲。
始まりと終わりの獣に出会いました。
彼らは番人です。
ねぇ、半端は不可ない、
通さないよ、
と、
何故か酷く優しい声音。
四つの眸が、
見せよ、と。
髪留め外して一礼。
証と言うなら、この黒髪、を。
通りゃんせ、通りゃんせ、
行きは佳い佳い、帰りは、
帰りは、
帰り、は。
鳥居の向こうに
夢は、居ました。
常夜の王国。
卵の色した光が満ちています。
揺れて溢れて、
滲む色。
小さな秘密、
そこかしこに孕んだ、
あたしの、夢、です。
夢、でした。
ぱり、と空気割るよな
ビィドロの音。音。
初物売りの呼び声の、哀愁。
さざめく声、
そぞろ歩きの帯のはらり。
ジンタ、
ジンタ、
そしてまた光。
ゆるり、風。
ここはランプがあかすぎて、
全くもって掬われぬ、
と、泡吐く金魚に目配せひとつ。
泣きなさんな、
だいじょうぶ、
きっと、くる、よ。
時が、くる。
くる
くる
と
風車。
原色は花と溶けて、
急かす、早足。
門の向こう、
朱(アケ)が、呼ぶ。
丹塗りの宮。
神世常世狭間。
柏手。
ひとつ、ふたつ。
神おわす先へ、
先へ、先へ。
掌、優しく、
結ぶ。
祈り。
一心不乱、
哀願、
に、似て。
笑み。
笑、む。
あたし、
いったいなにがそうまで、
こわかった、の。
林檎飴を買いました。
二つ、買いました。
一つはあたしの、
一つは、君、の。
つもりのつもりで
二つとも、
頬張って駆ける。
鳥居へ。
染まる唇、舌、指先、ぺろり。
駆ける、駆ける。
駆ける、
抜け、る。
はた、と風がやみました。
揺れていた花が泣くのをやめる。
紅い紅い曼珠沙華です。
果てなく見渡せる砂埃の路、
笑いながら駆けてゆく少年らの
白いシャツの背の、幻影。
野辺送り、
夢の、葬送。
骨色の月が
からりと砕けそうな頼りなさで見下ろしています。
鳥居抜けた先の、先、
潮騒。
小さな小さな砂浜の温くみが呼んでいる。
それだけが、
微かな夏の名残です。
大切に、大切に、
膝ついて掬う、砂。
さわさわと指の間、
風が流すから、
さようならです。
さよなら。
秋、ですね。