夜の駐車場にて
なかがわひろか

整列、点呼

僕の車しか止まっていない駐車場から
大きな声が聞こえてきた
一、二、三、四・・・
きびきびとした張りのある声が響く

一匹の猿が厳しい目で
小猿たちの点呼を確認している

こんな遅くに何をしてるんだい?
僕はボス猿らしいその猿に声を掛ける

おや珍しいねぇ
こんな時間に人がいるなんて

残業が長引いたんだよ
それより一体全体何事なのさ
僕は問う

何も今夜だけに限ったことじゃないさ
あんたらが何にも知らないだけで
うちらはこうやって毎晩この駐車場で
訓練しているのさ

だからって何でここなんだ
僕はそう思って
場所なら他にもあるんじゃないのかい?
と聞いた

猿はちょっと遠い目をしながら言う

ここいらも土地開発が進んじまってよ
広場みたいなもんもなくなっちまった
たまにそんなとこがあってもよ
カップルやら若いやつらやらで大賑わいさ
そんなとこじゃ訓練にもなりゃしねぇ
猿は僕にそう愚痴をこぼした

ここなら夜は静かだし
なんだって区分けがしっかりしてるからさ
訓練に持って来いなんだよ

そう言って猿は
Cの41番前へ、と号令をかける
するとCの41番に並んでいた小猿たちが
前へ一歩きびきびとした動きで出てきた

なるほどね
僕は少し感心した
確かにここなら訓練にぴったりだ

朝になったら山へ帰る
すみわけはここのアルファベットと番号と同じさ
ここのおかげで簡単に統率できるってわけさ

猿はなんだか得意気だ

ところでよ

なんだい

あんたの車をそろそろどけてくれねぇかな
Dの13番のやつらが訓練できないんだよ

おや、ごめんよ
僕はそう言って急いで車をどける

帰り際に猿に声を掛ける
また明日もするのかい

もちろんよ
いつ何が起こってもいいようにするのが
訓練だからよ

また得意気にそう言うと
猿は訓練に戻っていった

やれやれ
まだまだ世の中には知らないこともあるもんだ
僕は車を走らせながらそう思った

ところで一体
彼らは何の訓練をしているんだ?
また明日にでも聞いてみるか

窓を開けると涼しい風が吹き込んできた

(「夜の駐車場にて」)


自由詩 夜の駐車場にて Copyright なかがわひろか 2007-04-25 03:52:35
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