愛野讃歌
佐々宝砂

うちの最寄り駅は
大笑いなことに愛野というのだ
駅にほどちかい工場の連中は昔バンドを組んでいて
そのバンドの名は
大笑いなことにラブフィールドといったのだ
そいでもってうちの近所の
つまり駅近くの道っぱたには
「君とぼくルール守って愛の道」
という標語の立て看があるのだった
もうここまでいくと
笑いを通り越して頬が痙攣しはじめるわたくしなのであるが
それでもわたくしとあなたが出会ったのは
この駅周辺で
駅にほどちかい工場のまわりは
散り落ちた桜でほのしろく染まり
目を近づけて見りゃ白くはなくて薄汚いが
それでも春の雨に濡れてひかる桜葉に
あなたとわたくしの思い出などが映ったりもするわけで
愛野駅前でわたくしは
あなたを何度待ったことだろう
愛野駅は
歴史もろくにない
駅前にコンビニがどうにかあるだけの
行政が自分たちの都合で都合つけて無理につくった
ちっぽけなつまんない駅ではあるが
どんなに否定しようとも
どれほどマイナスを強調しようとも
あなたがわたくしから離れてゆこうとも
いやたとえあなたがこの世から消えようとも
愛野駅がある限り
わたくしはあなたを忘れまい
ということはもしかしたらわたくしの愛の存続は
JRの営業努力にかかっているのかもしれないが
ともあれ愛野よ永遠であれ
笑いすぎて引き攣る頬に
愛野の、否、愛のくちづけを








自由詩 愛野讃歌 Copyright 佐々宝砂 2007-04-23 18:36:20
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