名前盗み
なかがわひろか
名前盗みはいつもその人の
一字だけをガリガリと齧り取る
決して全部は食べない
いろんな味を試したいから
名前盗みに名前を齧られると
そこだけぽっかりと
まるでそれすら名前の一部のように
空白ができる
いつまでも思い出すことはできなくて
そのうちそれでもまあいいかと
多くの人はそうなっていく
いやあ昨日名前盗みに名前を齧られちゃってねぇ
あんたもかい、実は僕もなんだよ
先月からフルネームが出てこないんだ・・・
なんて会話は日常茶飯事
みんなそれほど気にしない
そのうち段々慣れていく
ガリガリ
ガリガリ
名前盗みは今日も誰かの
名前を齧る
ところで僕の名前は
ガリガリ
ガリガリ
どうやら今日の獲物は
僕のようだ
(「名前盗み」)