雨、尽きた後に
なかがわひろか
約束の時間になっても
あまがえるは姿を現さなかった
もうすぐぽつぽつと青苗が植えられる水田は
今日の雨を十分に吸収して
ちょっとした池の様だ
ゲコゲコ
申し訳なさそうな鳴き声がする
小さなあまがえるが鳴いていた
新入りかい?
僕が尋ねると
ゲコっと肯いた
少しでも練習しとかないと
先輩方に迷惑かけるんで
新入りのあまがえるはそう言って
またゲコゲコと鳴きだした
君の先輩はスコッチを飲んで声を枯らしていたよ
というと
あっしは下戸なんですぜぇ
と言ってまた練習に戻る
僕は一人でスコッチを飲みながら
あまがえるのことを少し考えて
なかなかいい線行ってるよ
と声をかけた
新入りのあまがえるは嬉しそうに
明日からあっしも参加しますんで
よかったら来てくだせぇ
と言った
僕はにこりと笑顔を向けた
きっと僕はもうここにも来ないだろう
あのあまがえるもきっと
なんだかそんな気がしていた
ゲコゲコ
いい声だ
(「雨、尽きた後に」)