葉桜の下、一度きりの。
佐々宝砂
俺はあいつが嫌いだ
はらはら散る桜と同じくらい嫌いだ
もっとも俺は
ぼとんとみっともなく落ちる椿も嫌いだが
だって考えてくれ
生首に潔いもクソもあるか
ぼとんと落ちようが未練たらしく落ちようが
落ちたあとは腐るだけだ
年の差がどうとか
バカバカしい話はぜひともやめてくれ
手をつなぎたかったら
俺に見えないところでやってくれ
おめでたの話なんかは特に
俺に全く聞こえないところでやってくれ
あいつはクソで
俺はクソ以下なんだと思うが
それでも
今は春で
菜種梅雨の晴れ間で
山桜の葉の朱が映える
今この瞬間この青空を共有してるのは
あいつとあなたじゃなくて
俺とあなただ
こっちを見てくれ
一度きりでいい
俺の手に触れてくれ