たましいのともだち
モーヌ。




高層_ 大理石建築の なかで なつかしい

( いまは、どこのひとなのだろう? )

ウオシゲに あった

かれは 色の 白い きれいな 顔を して

シャープな フレームの めがねを かけて いた

胸の奥を 黄いろい ビキニの 少女バンビが

どこまでも なぎさを 変転して ゆく

ああ ウオシゲだ...

ぼくは かたまりを のどに つまらせたように

うまく 話せなかった

( それは めずらしいことじゃ ないけれど... )

うれしいんだ とか

きみは どこにいたの? とか

青年のころの 不在の あいだ

どんなに きみに

親愛を 感じていたこと とか...

けれども 口を もごもご するばかり だった





かれは 流暢な イングリッシュで

ぼくに 話しかけた

( ああ きみは 英語を 話すんだね... )

かれの 表情と たたずまいの なかで

外国の 街並み や 多忙なように うごめく

小奇麗な 人間たち や とても 強い

砕けた ガラスの 生みだす 反射光が よぎった

ぼくは 学生のころのように

英語を 流暢に 話せなくてはならないんだ... という

思いの はずかしさを 持って

かれの 前から 脱兎に なって 駆け出した

かれの 肌のように

白い ぴかぴかする ひかる床に はじかれて...





( 勉強しなければならない... )

ぐるりと 遠回りして

エスカレーターの 下りに 乗った

2階ほど 下の階に 着いて

正面のドアを ひらくと

ふたりほどの 人が 机に 顔を

埋めるように 勉強して いる

ひろい 講義室件教室が あった

ドアを 開けて 入ると

ぱっと 教室の 灯りは 消えて しまった

真っ暗だ... 昼間で あった はずなのに...

夜 なんだ

ここの 部屋には 窓が なかった

やっぱり ぼくは ここから 出て ゆくんだ





ふたたび エスカレーターに 乗って 下った

右の 側面が おおきな 窓ガラスに なっており

色ガラスに よって 琥珀いろに 変色した

午後3時の 陽光が さっき までの

コミックな 夜を 駆逐して あたりを

黄み がかった ランポスに して いた

外には 道が...

たくさんの 信号待ちを している人々

往来を ゆきかう人々や くるまたち...

それらは 群集して 散らされて いた





そのなかに 細面で 色の白い 中背で

髪を きれいに 短髪に している

ブルックス・ブラザーズ・スーツを 着た ウオシゲが

信号が 変わるのを 立ちどまって 待って いた

細長に 白鶴の 首を 伸ばして

かれは どこを 見ているのか...

ぼくの ほうを 見ているが ぼくが 見えていない ようだ

ぼくは かれを じっと 見る

たぶん それが 永いお別れだと 知っていた ゆえに...

まだ 下りの エスカレーターの 上に いた

信号が 変わった





ディミヌエンド

かたまりのような 人たちの なかに

ウオシゲは 消尽して いった

ある日 きみと 通り抜けて 酔っ払って しまった

梅林の においが ぼくの 胸の内を

さくらいろに 吹きすぎて いった

あらゆるところにある 早春が

意味を 変じて めくる めいた

うわの空に むかって

ぼくは 地上に 降りて しまった

そこには 無機質な 人の 群れの

平面と 巨大と 量感が あり

暴発する うなりが 音も なく

蒸気して 動いて いる

また 見失って しまった











自由詩 たましいのともだち Copyright モーヌ。 2007-04-22 07:42:49
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