ブランコ
小川 葉
それは夢ではなく
暗闇の中ひとりベッドの上で涙してる自分を
俯瞰から眺めてるデジャブ
突然ひらりとベッドの上から
蝶のように鏡台の前に舞い降りてみて
かみそりを手首にぴたりと当ててみるフィクション
すべてが予定調和である
自分の行動が余計に悲しい
ふたたびこみあげる涙はけっして嘘ではなく
あわてて明かりをつけてみたら拍子抜けに
なにもかもがしらけてしまった
何枚も何枚も
鼻をかんだり涙を拭くための
ティッシュをむしりとる音だけが
虚無たっぷりに部屋に響きわたる静寂の無意味さが
なんとも腹立たしいけれども
なにげにそれも心地よくてたまらない
ついついひたってしまいがちな夜の昼下がりに
私はかばんの中にクッキーを探し当て
ほおばりながら目を閉じて鏡にキスしてしまいました
おやすみなさい
*
朝の笑顔に夜のおもかげを残しながら
今朝もまた庭の花には朝露が光っていて
そのわざとらしいほどの乙女を憎々しく思う
お母様の手料理は好き
やさしさが詰まっている気がする
私はまだそんなふうにつくれない
誰がつくっても同じみたいな
目玉焼きでさえなにをどうすれば
あんなにほっこりしたしあわせな味になるんだろうと
不思議で不思議でしょうがない
でも私お腹すいていたくせに
わざと朝食食べなかった
ちょっと伏し目がちに
病んだような顔して家を出てみたから
今頃お父様は電車の中で
私のこと心配してくれてるかな
なんて考えてたら腹の底から可笑しくなってきて
げらげらと上を向いて大げさに歩きながら
肩がぬけるくらいブランコみたいに
かばんを大きく大きく前後に揺らして
そのまま空高くぶんなげてやりたくなった