ブランコ
小川 葉

それは夢ではなく
暗闇の中ひとりベッドの上で涙してる自分を
俯瞰から眺めてるデジャブ

突然ひらりとベッドの上から
蝶のように鏡台の前に舞い降りてみて
かみそりを手首にぴたりと当ててみるフィクション

すべてが予定調和である
自分の行動が余計に悲しい

ふたたびこみあげる涙はけっして嘘ではなく
あわてて明かりをつけてみたら拍子抜けに
なにもかもがしらけてしまった

何枚も何枚も
鼻をかんだり涙を拭くための
ティッシュをむしりとる音だけが
虚無たっぷりに部屋に響きわたる静寂の無意味さが
なんとも腹立たしいけれども
なにげにそれも心地よくてたまらない
ついついひたってしまいがちな夜の昼下がりに
私はかばんの中にクッキーを探し当て
ほおばりながら目を閉じて鏡にキスしてしまいました
おやすみなさい



朝の笑顔に夜のおもかげを残しながら
今朝もまた庭の花には朝露が光っていて
そのわざとらしいほどの乙女を憎々しく思う

お母様の手料理は好き
やさしさが詰まっている気がする
私はまだそんなふうにつくれない
誰がつくっても同じみたいな
目玉焼きでさえなにをどうすれば
あんなにほっこりしたしあわせな味になるんだろうと
不思議で不思議でしょうがない

でも私お腹すいていたくせに
わざと朝食食べなかった

ちょっと伏し目がちに
病んだような顔して家を出てみたから
今頃お父様は電車の中で
私のこと心配してくれてるかな

なんて考えてたら腹の底から可笑しくなってきて
げらげらと上を向いて大げさに歩きながら
肩がぬけるくらいブランコみたいに
かばんを大きく大きく前後に揺らして
そのまま空高くぶんなげてやりたくなった


自由詩 ブランコ Copyright 小川 葉 2007-04-22 02:32:33
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