あまがえる、前夜
なかがわひろか

そろそろ準備をしとかないとね
あまがえるは僕にそう言った
明日からなんだ
あまがえるは少し嬉しそうだ

まだ大きな声は出せないんだけど
あまがえるはそう言いながら立ち上がって
ゲコゲコと発声練習を始めた
あまがえるは少し甲高い声を上げる

思ったよりきれいな声なんだね
僕は親しみを込めてそう言った
あまがえるは少し照れたように
ありがとよ、と返した

だけどもっとしゃがれた声じゃないといけないんだ
これじゃあ下のやつらにも示しがつかない

少し酒をもらっていいかな?
あまがえるがそう尋ねたので
僕はもちろんと言った

もっと声を枯らさないと
ごくごくとスコッチを飲んで
またゲコゲコと叫んだ

きれいな声で鳴く年があってもいいと思うけど
僕はそう言ったが
あまがえるは首を振って
規則だから
と少し悲しそうに言った

君に聞いてもらえるだけでも幸せだよ
あまがえるの声は段々しわがれた声になっていく

あちこちからあまがえるたちの声が聞こえてきた

明日は何時頃から始めるんだい
僕がそう聞くと

大体6時くらいには鳴き出す予定さ
あまがえるはそう返す

じゃあその時間にまた来るよ

僕はそうあまがえるに別れを告げる

ゲコゲコ

あまがえるはそう言って
僕を見送る

(「あまがえる、前夜」)


自由詩 あまがえる、前夜 Copyright なかがわひろか 2007-04-22 01:16:45
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