ひとつ またたく
木立 悟
接ぎ木を重ねて枯れた樹が
庭の入り口をふさいでいる
小さな寄生木の花が咲き
風は粉と名前を運び
誰もいない街に撒いてゆく
山に残る最後の雪に
ひとりはぐれた鶴がいて
夕暮れ近い午後を舞い
風が撒くものを浴びながら
冬の背中に求婚している
指の傷をなめる音が
いつのまにか指笛となり
魚や曇や水を呼びよせ
棄てられた通りに面した空き地で
無言にまみれた翼を洗う
遠い雨
遠い石
青と銀は響きつづける
出会うことなく
離れつづける
雪から雪へ 門から門へ
うたは歩き またたいている
土の下の花 飛ぶことのない
ひとりのはばたき
触れることのない手に呼びかける