暇な時間割
チグトセ

僕はデスクのパソコンで暇な時間割をつくっている、らしい

僕がこの暇な時間割をつくることによって
会社の誰か(例えばそこの古いプリンターの向こうに霞んで見える上司、とか)がいくらか満足し
会社の利益さんを束の間(20秒くらいは)笑顔にさせる
だけの貢献をしている、らしい

しかしながら暇な時間割をつくる作業というのは
かつての大学の研究室で導いたどんな定理への道程も組み立てたプログラムも通用しないくらいに難解で
理解不能で
そして暇であるわけで


あの上司はひどい水虫持ちなんだってね
そりゃいったいどういう根拠で?
だって水虫顔だろう
なんだい、水虫顔って


という具合に
スカスカな暇の間隙にこぞって割り込んでこようとする思考と、馴れ合わないでいるわけにはいかない


その水虫は、けれども去年の暮れに治ったんだってね
その代わりに今春花粉症を発症したらしいよ
お気の毒に


景気は順調に回復してるんだってね
僕の好きなニュースキャスターが言ってたよ
そのニュースはきっと
エイプリルフールにやってたんだろうさ


今日は仏滅だったんだってね
ミネソタ州に住むガンベッティさんちの畑で
キャベツが14個しかとれなかったそうだ
それは災難だね


核をつくってる人は
本当は友達に自慢できるかっこいい宇宙船をつくりたかったんだってね
すごいな
でもその「宇宙船」を見た友達は
とりあえず引くだろうね


……蛇口をひねると水が出るんだってね
ありがたいな
それは過去に誰かが
その場所に水源があることを発見してくれたからだろう
どうもありがとう


そこのデスクで黒縁眼鏡をかけた上司は
55年も生きてるんだってね
信じられないよ
55年も生きてるだなんて!
とてもじゃないが、信じる気になれない
55年!?
その心臓はそんなにも長いこと長いこと
一度も交換することなく打ち続けてるっていうのかい
なんてタフな心臓なんだ
いやはや感服だ!
もう毎日皆から拍手喝采を浴びて生活してるんだろうな
55年か……
途方もなく長い道のりだ
彼はいったいどんな理論でそこまで辿り着いたのだろうか
まったく途方もない
途方もないったらありゃしない





やがて暇な時間割はできあがった
一度パソコンからプリントアウトされたものを再度パソコンに打ち込むという行為の意味は
深すぎて
その追究を放棄せざるをえない
立ち上がって55歳の上司に「できました」と言うと
55歳の上司は僕に
「じゃあそれをプリントアウトして」
と言った


自由詩 暇な時間割 Copyright チグトセ 2007-04-21 19:07:55
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