うごきだす、
シリ・カゲル
僕は深夜の公衆電話ブースで
キミに聴かせる物語を暗誦している
動物病棟に緊急搬送されたクマリスの
バイタルは比較的安定している
すでに眠りについたキミの枕元には
3年ほど前に発禁処分になった六法
もう何年も改正されてない条文の合間をぬって
大きな虎がコシタンタンと
キミの皮膚の薄い部分に近づいていく
クマリスはエドハリスとの闘いに敗れた
それは後味の悪い闘いだった
虎はもうまもなくキミに襲いかかるのだろう
最悪の結末を迎える前に、僕はキミに
「おはよう」から始まる物語を届けなければならない
クマリスの呼吸がわずかに乱れる
エドハリスは皮膚の薄い部分だけを狙って攻撃してきたのだ
物語の完成まであとワンフレーズ
僕は少しだけフライング気味に
重力の底へ落ちていこうとする受話器に手をかけた。