太宰ヒラメ
佐野権太

私は元来
無口な男でありまして
うっかり、思慮深く思われがちですが
それは、本心を秘めている
というより、むしろ
現すタイミングを計れない
どうにも不器用な人間なのです


何か言わなければ、と焦るほど
とんでもないことを口走ってしまいそうで
人の心を傷つけはしないかと
いつも
臆病を抱えているのです


私の正体は
砂底にへばりついた
平べったい
ヒラメなのです
目だけを砂の上に出して
様子を窺っているのです
いつだって
逃げだす準備は万端なのです


だからもう
私に多くを期待しないでください
頑張れ、なんて
もう勘弁してください
私が頑張ると
たいてい
不味いことになりますから


ほら、御覧なさい
こんな怠けた書き物をしたためている今も
見事に潮がひいていきます
そのうち
子供たちがやってきて
そこいらじゅうを
熊手のようなもので
わんさか掘り返すでしょう
きっと
私の白い腹を
無邪気に突ついて
ぱたぱた藻掻くのを
じっくり観察するのです







自由詩 太宰ヒラメ Copyright 佐野権太 2007-04-20 09:15:56
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