コンタクトレンズテントウムシ
はじめ

 コンタクトレンズをしようと思って目の中に入れようとしたらそれはテントウムシだった 足を縮めてまるで本物のコンタクトレンズのように見える
 僕はきゃっ と驚いてテントウムシを落としそうになった 僕はすぐにティッシュでくるんでゴミ箱に捨てるか外へ逃がしてやろうかなと思っていたが試しに付けてみることにした(しかしどうやってガッチリ蓋を閉めたケースの中に入っていたのだろう というか コンタクトレンズはどこに行ったのだろう?)
 片目の瞳孔が真っ赤に煌めきその中に黒い7つの星が泳いでいた ナナホシテントウだ 僕は外に出て どんな変化が起きたのか確かめることにした 通りすがりの綺麗なお姉さんを見てみた するとなぜか彼女が今考えていることが分かったのだ ?今日の合コンどうしようかしらねー あまりいいメンツ揃わないみたいだけど興味半分で行ってみようかしらねー 最悪だったら途中で帰ればいいし 帰りはホカ弁でも買おうっと?
 なんということだ このナナホシテントウのコンタクトレンズは心を覗き込める力を秘めているのだ 僕の心はパァーっと希望が広がり もっと他の人の心を覗き込んでみたい気持ちが湧き上がってきた よぉし と声を出してでも 心の中でも言うと 僕は駆け出して街の方へと向かった
 僕は店の前の柵に乗っかり 道行く様々な人々の心の声を聞いて楽しんでいた 人間って色んな事考えてるんだなぁーと思って 腹を抱えてゲラゲラ笑っていた 柵から落ちそうになった 他人から見れば僕は異常者に見えたことだろう そして右目がおかしいことに疑問を持つだろう しかしそんなことは全てこのコンタクトレンズで見えていて それが脳で聴覚を刺激する電気信号に変わって聞こえていた 中でもターゲットにしていたのは最初に見た綺麗なお姉さん系の人や可愛い人などだ 男の心を読んでも次第に面白くなくなってきた 視界は赤と黒の景色で見づらかったが 慣れてしまえばどぉってことはなかった
 僕はふと空を見上げて見とれていた 空の心を読んだ気がした 僕はとたんに無心になり 流れゆく人々の音を聴いていた 僕は柵から降りて もう帰ろうと思った そしてナナホシテントウを逃がそうと思ったのだ 僕が空から何を読み取ったのかそれは分からない でも 生きる上でとても大切なことを学んだような気がするのだ 僕はナナホシテントウを逃がす前に堤防に寄ってもう一度空をじっくりと眺めたいと思った 僕は何も悲しくないのに俯いて春の堤防へ向かった
 堤防に続くように桜が植えられていて強い風が吹くと花びらがぶわっと散った とても美しい光景だった 僕は堤防の芝生に寝ころび 雲のかかった空を眺めた 空は常に見てくれる人の気持ちを考えている 僕が不安事を話すと空はそれに応じて相談をしてくれる 僕は空が姿を変えるまでずっと相談事をしていた 夕暮れになると不思議と僕の不安事は無くなり しかしまだ話したいことが山ほどあるような気がしていた 景色はコンタクトレンズを通してあまり変化は見られなかった 僕はナナホシテントウを放す時間だと思い そっとナナホシテントウを外し 逃がしてやった 帰りにホカ弁でも買って帰ろうかと思った


自由詩 コンタクトレンズテントウムシ Copyright はじめ 2007-04-20 04:04:35
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