油断
あおば

                    2007/04/19

集団面接で気力体力此処の街が好きですと言ってのける街灯の下には
おびただしい数の虫の死骸や吸い殻やガムや蹲った人たちの影が黒く
こびりつき薄汚れていて絵に描いた猫だって寄りつかず魚影も濃い。

網を投げ入れるのはこの辺が好いと
いっぱしの漁師のつもりでいたら
どけどけと言うように
身体の大きな人たちが
両手を振って
歩いてきて
驚かすので
魚はみんな逃げてしまったようだ。

月明かりの街は仄かに明るくて
逃げるには差し支えなさそうで
脅かされて
遠くまで行ってしまった魚の群れは
今夜はもう戻ってこないだろう

投網を畳んで魚籠に入れて
漁師の姿で舟を出し
真っ黒な道路をゆっくり漕いでゆく
キーコー、ギーコー、擦れる音が
どこからか聞こえて
油ぎれの症状を示す
ベアリングが片摩耗して
そんな音を出すのだろうと
気にしないでアクセルを踏んだ
月明かりの街は見通しが良くて
いくらスピードを上げても
夢の中の滑らかな弾丸のように
するりと通り抜けられるので
少しも怖くない。


自由詩 油断 Copyright あおば 2007-04-20 01:54:51
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