ノート(水応輝)
木立 悟




夜の輪郭が瑞々しく
他の夜の暗さから起き上がるとき
波を湛えた器を抱え
灯りの無い道を進みゆくとき
声は牙の冠のように
おごそかに髪に降りてくる


ふたたびからになる器を満たし
夜のもうひとつの名を呼び放つとき
走りつづける自らの影が
巨大な蟷螂に立ち上がるとき
波の音は重く途絶え
満ちた器をからにしてゆく


こぼしたくないこぼしたくない
ひとしずくひとしずくの重なりが
手のひらに刺さり 消えてゆく
風は強くなりまた強くなり
壁と土のさかいめの蒼
壁を昇り 空を昇り
さらに空の高みへ昇る


雨は来て雨は去る
土はゆるく緑を映す
波とともに音は還り
抱えられた器を揺らす
髪とうなじをなぞる銀
朝へ向かう夜のなかで
冠はしずくのようにささやいている











自由詩 ノート(水応輝) Copyright 木立 悟 2007-04-18 23:52:18
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