カメさん
楢山孝介


カメさんは実は亀だという
浦島太郎を竜宮城に連れて行き
数百年後に地上へ連れ帰ってきた亀だという

玉手箱を開けてしまい
よぼよぼの爺さんの姿になった太郎に同情して
地上で一緒に暮らしているうちに
よぼよぼの婆さんの姿になってしまい
海へ帰れなくなってしまったのだという

太郎を背中に乗せた時の
ときめきを語るカメさんは
老齢を感じさせない色っぽさをかもし出している
太郎はほどなく亡くなったものの
カメさんは何せもともと亀なので
一万歳にならないと死ねないので
仕方なく長々と生きているという

「また昔みたいな出会いがないかと思って
 浜辺をよく歩くんだけど
 この恰好じゃあ子供たちはいじめてくれなくてね
 それによく考えたらせっかく助けてもらっても
 竜宮城へ連れていってお礼出来ないのよね
 潜り方忘れちゃったし」
海を見つめながらカメさんは寂しそうに言う

話を聞いているうちに
何だか顔が火照ってきたわたしは
思わずカメさんの頬にキスをした
「女とはごめんだよ」と一喝された
怒るカメさんはちょっと可愛かった


自由詩 カメさん Copyright 楢山孝介 2007-04-18 13:09:56
notebook Home 戻る