脱税
たもつ

脱税しました
空は晴れていました
脱税したお金で
スポーツカーを買いました
お金が足りないので
模型のスポーツカーでした
海の近くでした
風に匂いがありました
一輪車が得意でした
上手ね、と大人たちにほめられ
それから数十年を経て
脱税しました
空は晴れていました
明日も晴れれば良いのですが
恋人と初めて出会った日は
雨が降ったり止んだりでした
そして夏みかんを食べました
ただの知っている人と
二人で食べました
まだ脱税はしてませんでした
海の近くでした
もりお、です
もりお、もりお、
守る男と書いて、もりお、です
もりおは守る男です
選挙カーは今日も走りました
模型のスポーツカーよりも
速く走りました
だつぜい、と言葉にすると
春のように
少し口の周りが湿りました
恋人は夏みかんが嫌いでした
みんな嫌いと泣いていました
殺すつもりはありませんでした
これからもきっと
殺すつもりもなく誰も殺さない
無邪気に信じ続け
脱税しました
海鳥が飛んでいました
通りがかった人に何かされていました
別れるときは必ず手を振ろう
という幼い約束は
幼いが故に守られませんでした
税務署の人がハンカチで汗を拭きながら
署に勤める前は百貨店で机を売っていたんですよ
と一度だけ言いました
そうなんですか
一度だけ言いました
ポケットに手をつっこむと
海の近くでした


自由詩 脱税 Copyright たもつ 2007-04-18 11:41:54
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