たらたらたらり
ukiha

しらないおじさんがわたしの部屋に居ました。
そのおじさんは わたしに
「まほうのくすりをあげよう」といって、
ちいさな瓶をひとつ、くれました。

「これは、たらたらたらり というくすりだよ」とおじさんはいいました。
そのなかには、どろっとしたゲル状の透明の液体がはいってしました。
そういって、おじさんは消えました。

わたしは朝からいらいらしていました。
歯磨き粉を服にこぼすし、髪型はきまらないし、スパムは来るしウイルスも来るし、
ソースと醤油はまちがえるし、大好きな彼氏には
「じゃ、そんなわけでホイホイ♪」とか意味のわからない電話で一方的に別れを告げられ、
ハンドルネーム「花はこの世の」という黄土色のサイのような顔をした男からは
「どうして会ってくれないのですか。僕たち恋人じゃありませんか」という通算12通目の身勝手なメールが届き、
でかけようとしたらシャツと靴の色のバランスもおかしいし、もう頭のなかがぐちゃぐちゃになっていました。

そこでわたしは物は試しとおもって、その「たらたらたらり」を痛み始めたこめかみに塗ってみました。
最初は何の変化もないので、がっかりしていましたが、そのうちなんだか、頭が溶けるような感覚に襲われました。

こめかみに手を当ててみると、たしかに溶け始めています。
どろり、どろりとわたしのこめかみは溶け始め、なんだか可笑しくて可笑しくてわたしは笑い出しました。

笑いは止まらなくなっていき、こめかみからは真っ黒い膿のようなものがたらたらと流れ出し、歯磨き粉も髪型もスパムもウイルスも、ソースも醤油も「ホイホイ♪」も黄土色のサイも、もうどうでもよくなって大笑いしていました。

笑いは真っ黒な膿がすべて流れ出すまで続き、わたしは笑いすぎて今度は涙を流しながら部屋のなかを転がっていました。

全部おわった頃は、どうしていらいらしていたのか、どうして笑ったのかどうして泣いたのか、すっかり忘れ、「たらたらたらり」はいつのまにか消えていました。


未詩・独白 たらたらたらり Copyright ukiha 2004-04-30 10:12:32
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